Kanawa
(1972)
新藤兼人監督が、能の演目「鉄輪」を元に怨とエロスを描く衝撃作。平安時代の物語と現代のドラマを交錯させる異色のストーリーが展開。丑の刻、嫉妬に燃える中年女が藁人形に呪いの五寸釘を打つ。その頃、中年女の夫とその愛人は性愛を交えていたが…。 古代--十一世紀。貴船神社の丑満時、嫉妬に燃える中年女が呪いの五寸釘をワラ人形にうちこむ。丑刻語りである。几帳の中で熱い抱擁を交わしている男女、中年の女の夫と愛人の若い女である。突然、女が身もだえしてのげそる。うちこむ五寸釘が呪いをかけてくるのである。現代--ベッドで悶える裸の男女。古代の男と若い女である。電話のベルが鳴る。受話器を取るが、相手の声は聞こえない。電話のベルと男の動作がくり返される。あるアパートの一室。向いあって坐っている中年の男と女。男は十五年連れ添った妻に離婚を宣言する。しかし、妻は「別れません」と無表情にくりかえす。古代--丑刻語りの満願の日。暗闇の中より神のお告げがある。「赤い衣を着、顔に朱を塗り、頭に鉄輪を着け、怒りの心をもつならば、勿ら鬼神になろう」。嫉妬の鬼女となった女が狂ったように乱舞する。呪いに耐えかねた男が、陰陽師阿部晴明を訪ね占ってもらう。女の恨みが深く、命も今宵限りだといわれる。現代--男と若い女が手相を見てもらっている。「怪しげなる妖気がのぼっている、ジェラシーの神の怨みだ」といわれる、その時すうっと中年女が通りすぎる。男と若い女は、電話から逃れるため、高原のホテルに居る。ベッドで二人の濃密なラブシーンがはじまる。突然、電話のベル、まるで生きもののように鳴り続ける。「どうしてここがわかるの、この電話に殺される!」若い女は男にすがりつく。古代--生霊が、頭に鉄輪を着け、伏した男と女の枕に迫ってくる。現代--生霊は二人のベッドに迫る。枕もとを呪いをかけて通りすぎる。「きっと奥さんが来てるのよ」と女が言う。隣室に、一人で誰か泊ってるらしい。正体をつかもうとするが失敗。ふと廊下を中年女が通った気配がした。二人は追って出たが、中年女は霧の中へ消えた。古代--晴明の懸命な祈祷によって、生霊はしだいに力が弱まってきた。一方男も生霊に追いつめられ、息もたえだえにあえいでいるが、生霊はしだいに衰えてきた。「おお無念なり、口惜しき」と叫んで生霊が消えてゆく。現代--男と若い女が湖畔に立っている。突然、若い女が突きとばされて湖の中へ落ちた。男が助けあげる。岸辺を去ってゆく中年女。ぬれ鼠の二人は、ホテルに戻る。途端に鳴る電話。男が受話器を取り叫ぶ「どこにいるんだ、人殺し!」、やはり返答がない。古代ー吹きすさぶ荒野、頭に鉄輪を着け、顔には朱を塗り、口は裂け、釣り上った目の鬼女が嫉妬の焔を燃して呪いをかけつづける。